2023年10月18日(未)
人間の心の破壊が自然を破壊
<依正不二>
池田 そう。「人間」の問題です。
仏法では、生命の状態を「十界」として、十段階に説いている(地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天、声聞、縁覚、菩薩、仏の十界)。
十界では、「人間(人界)」を真ん中にして、それより上位の″尊い生命″もあれば、それより下位の″醜い生命″もある。下は、自然に反する″不自然″の生命状態です。上の四聖(声聞、縁覚、菩薩、仏の生命)は自然を大切にし、自然が豊かに広がる楽土をつくりゆく。下のほうに引きずられるか、上のほうに引き上げられていくか、です。
畜生の生命で草木を食べ尽くし、寒々しい自然にしてしまうような人間性を変えていくのは、人間の知性であり、文化であり、信仰です。依正不二だから、人間の「心」が破壊されれば、「自然」を汚し、破壊してしまう。地球の砂漠化も、人間の「心の砂漠化」と一体なのです。戦争は、その最たるものです。自然を破壊し、心を破壊する。
二十世紀は「戦争の世紀」でした。二十一世紀は、「生命の世紀」にしなくてはいけない。経済、政治、科学、すべての面において「生命」が最優先される世紀にしなければならない。
―― 身近なところでも環境破壊は進んでいます。私の住んでいる地域でも、緑の丘や、あき地が″開発″され、マンションなどに代わっていっています。犬を放して散歩させられる場所もなくなり、息苦しい感じがします。
池田 自然を壊すのは、人間を壊すことになる。なぜなら自然は、人類の「ふるさと」だからです。あらゆる生命も人類も、大自然の中から誕生した。機械ではない。科学でもない。自然という環境の中から誕生したものです。人工的につくったものではない。
人類の誕生については、アフリカで誕生したという説や、何かの因果関係で、全世界の各所で、いっぺんに誕生したとか諸説あるが、自然の中から生まれてきていることは事実です。
だから、自然から離れれば離れるほど、人間のメカニズムは狂ってしまう。この点に気づかなければ、人類の未来は不幸です。
青春対話 Ⅰ 大自然との語らい 283頁
2023年10月18日(未)
地球も一つの生命
<私たちは地球の一部>
池田 私たちは地球の一部なんです。地球が私たちの一部なのではない。人間の傲慢は、そこを勘ちがいしてしまった。
ガガーリンが、人類で初めて地球を宇宙から見た時、「地球は青かった」と言った。大変な証言です。海の青さ、雲の白さ。それは地球が「水の惑星」だからであり、「生命」の輝きです。
仏法の真髄においては、一本の草も木も、石ころや塵でさえも「仏」の生命をもっていると見るのです。これ以上の「生命の尊厳」の哲学はない。
仏法は演繹法的に(まず原理を示す方法)、また直観的に、そういう智慧を説く。
科学のほうでも、帰納法的に(事実を下から積み上げる方法)、「人類の生き方」を向上させようという決意が必要でしょう。そこに、すべての出発がなくてはならない。
地球も一つの「生命」である、という見方を示した「ガイア理論」は有名です。提唱者のラヴロック博士は述べている。
「不思議なことに、なぜかその見方は優しさや慈しみの心という人間的価値と重なってくる」(『ガイアの時代』スワミ・プレム・プレブッダ訳、工作舎)
青春対話 Ⅰ 大自然との語らい 289頁
2023年10月18日(未)
レイチェル・カーソン
環境汚染と戦う信念の人
<行動! 美しい地球を愛すればこそ>
池田 その通りです。自然を守るとは、口でいうほど、やさしいことではない。時には、妨害もある。命を狙われる場合さえある。
アメリカの海洋生物学者、レイチェル・カーソンさんを知っているだろうか。『沈黙の春』(1962年発刊)は、環境汚染を取り上げた、勇気ある一書です。
当時、アメリカでは、危険な農薬が大量に撒かれていた。効果があるかに思えたが、次第に、害虫以外の虫も、魚も、姿を消していった。楽しく歌っていた鳥たちも次々と死に絶え、春は「沈黙」してしまった。農薬を浴びた人間にも病気が続発しはじめた。
彼女は、この事実を告発し、危険な農薬の使用禁止を訴えたのです。発表するやいなや、想像を絶する攻撃が始まりました。
――正しいことを主張しても、攻撃されるのですか。
池田 正しいからこそ攻撃されるのです。それによって莫大な利益をあげている企業から。企業と手を結んでいる役人、政治家たちから。いつの時代も同じです。この構造を見破らなくてはいけない。
農薬の関係者による非難キャンペーン。業界雑誌も彼女を風刺した。彼女の本を「カーソンが非難する農薬よりも有害である」(リンダ・リア『レイチェル・カーソン』上遠恵子訳、東京書籍)と。
州の研究機関すら彼女に反論した。その研究機関は化学企業から多額の寄付金を受けていました。″『沈黙の春』を沈黙させよう″。テレビ・ラジオが平均・五十分ごとに彼女を攻撃した日もあった。医師会すら、″農薬の人体への影響は、農薬業界に聞くように″と勧めていたのです。
しかし、彼女は訴え続けた。″これは、世界が危険な物質によって汚染されているという本当に恐るべき事実の一部分でしかない″と。そして民衆の支持を獲得し、環境保護の思想を全米、全世界へと広げていったのです。その信念の炎は、二年後に死去(1964年4月)した後も人々の心で燃え続け、大きく世論を変えていったのです。
彼女は、若い人たちに語り残している。「地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう」(『センス・オブ・ワンダー』上遠恵子訳、佑学社)
ケニアのことわざにある。「地球を大切にしなさい。それは、親からもらったものではなく、子どもたちから借りているものだから」と。
しかし、環境を破壊する現代の大人たちは諸君や諸君の子孫の世代に、過大な″負の遺産″を残そうとしている。「経済」を最優先し、これまで自然によって守られてきた健康も、文化も、環境も、生命も売り渡そうとしている。だからこそ君たちが行動するべきなのです。まだ「地球の美しさと神秘」を見失ってない君たちが、声をあげるべきなのです。諸君が生きる二十一世紀を諸君の手で守る戦い、「生命の世紀」とする戦いは、もう始まっているのです。
青春対話 Ⅰ 大自然との語らい 292頁
※レイチェル・ルイーズ・カーソン(Rachel Louise Carson、1907年5月27日 - 1964年4月14日)は、アメリカ合衆国のペンシルベニア州に生まれ、1960年代に環境問題を告発した生物学者。農薬として使う化学物質の危険性を取り上げた著書『沈黙の春』(Silent Spring)は、アメリカにおいて半年間で50万部も売り上げ、後のアースディや1972年の国連人間環境会議のきっかけとなり、人類史上において、環境問題そのものに人々の目を向けさせ、環境保護運動の始まりとなった。没後1980年に、当時のアメリカ合衆国大統領であったジミー・カーターから大統領自由勲章の授与を受けた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2012年7月24日
「人間性」もポイ捨て?
勝手にゴミを捨てる、空き缶を捨てるというのは、傲慢な畜生の心です。後から来る人のことをまったく考えない「エゴ」であり、不自然な人生の生き方です。自然を大事にしようとしている人ならば、ゴミなど捨てられないはずだ。ゴミを捨てるのは、自分の「人間性」を捨てることにほかならない。反対に、自然を愛する人は、人を清らかに愛せる。平和を大切にする。損得の計算の世界を超越した、もっとも情緒豊な人生です。
青春対話 Ⅰ 大自然との語らい 290頁
2023.10.18整理